前をゆく その背後










 石田殿は常に俺の前をゆく。

 毅然と伸びた痩身は大股に歩く。扇のように立った襟で、うなじは見えない。短く整えられた銀髪が光に透けてうつくしいと、いつも思う。

 そして足が速い。もともと口数は少なくいらっしゃるし、どう声をかけるべきか迷い、やめてしまう。並ばれることがお嫌いなのか。だとしたら、ますますその横顔を見るのはためらわれる。

「真田」

 石田殿が名前を呼ぶ。倣って足を止める。

「はっ」

 返事をするが、彼は黙っていた。

 ややあって、振り返る。

 鼻梁まで垂らした前髪の奥は、不機嫌そうに歪んでいる。切れ長のまなじりと、金色を帯びた瞳の双眼で睨んだ。

「貴様はなぜ、私の後ろを歩く」

 俺は小さく首をかしげた。ついてくるな、という意味なら石田殿は、はっきりとそう言うだろう。同盟を結んだばかりのころ、何度も拒絶された。いつも鋭く、見透かすような目をなさる。

 淀みながら答える。

「恥ずかしながら貴殿の歩幅を追うのがやっとで」

「私が貴様に合わせているにもかかわらずか」

 咽喉が引き絞られた。金色の瞳は真っ直ぐ射抜いてくる。石田殿は嘘をつかない。それもよくわかっている。だから、呼吸の仕方を忘れるほど驚いた。

「然様なこと」

 呟きかけて、呑み込んだ。正面に佇む石田殿と、わずか一歩の距離がある。

 隣へ並ばずに、立ち止まったのは誰であろう。

 言葉を継げずにいると、銀の前髪が揺れて、刀の柄を向けられた。

「もう二度と待たない」

 眉間に刻まれた皺が怒りの深さに思えて、身体中の血が冷めきった。

 痩身は流れるような動きでまた前へ向く。

 踏み出そうとして、できなかった。

 俺は護るべき国を弱らせた。采配はいまだ拙い。信頼する忍びの、厳しさを増す忠言にさえ応えられているかわからない。

 無二の師を仰ぐ者が他にもいた。己よりも優れて、名を馳せていた。その将にもっとも近い男である石田殿へ、俺は「お役に立ってみせましょう」と申し立てることしかできない若輩だ。

 奥歯を噛み締める。あふれそうになる炎をこらえ、立ち尽くす。

「待たぬと言ったはずだ」

 低い声が響いた。

「さっさと並べ」

 銀髪は一顧だにせず歩くままだ。具足が震え、堅い音が鳴り続く。藤色をあしらった陣羽織は、ゆらゆらとなびいている。

 俺は目を見ひらき、それから彼の名前を呼びそうになって、やはり殺し、同時に駆け出した。唾のかたまりが咽喉をくだる。

 その足並みは思うに変わっていない。あっさりと追いついた。見上げれば、鋭かろうと恐れていた横顔は白く透けるようで、揺るぎなく前を見据えている。








  2011/4/3

 三成はきっと振り返るのが怖い。そこにいないかもしれないから。
 幸村はきっと横に並ぶのが怖い。自分は見劣りすると思うから。